ネットコンテンツの著作権について

ネット社会の急速な発展に伴い,人々の情報アクセスの可能性が無限に広げる一方で,国際的な対立をまねいた。まず我が国の著作権法を大まかに検討した上で,ネットコンテンツに関わる著作権管理(DRM等)の特性を傍観し, そのうえでコンピュータ・プログラミングは著作権であるか否かについて考察する。

 

著作権法

“(目的)

第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。“

 

 そもそも著作権法とは「文化」の発展に寄与する著作物を保護することを目的としている。

 さらに著作物は以下のように定義されている。

 

一 小説、脚本、論文、講演その他の言 

  語の著作物

二 音楽の著作物

三 舞踊又は無言劇の著作物

四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著

  作物

五 建築の著作物

六 地図又は学術的な性質を有する図

  面、図表、模型その他の図形の著作

  物

七 映画の著作物

八 写真の著作物

九 プログラムの著作物

 

 もっともこれらは「おおむね次のとおり」と表現されているように,あくまで例示であり,全ての著作物はこの9つのタイプに分類されているわけではない。加えて定義によれば,著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」である。要素を大まかに分類すると①思想または感情を,②創作的に,③表現されていて,④文芸,学術,美術または音楽の範囲に属する,ということになる。では,それぞれの要素について検討していく。

 

著作物

 各々の作品が著作物として認められるには以下の点を基準とされる。

 

  • 思想・感情

 著作者の精神的活動の成果が表れている必要があり,思想や感情とは関わりのないたんなるデータの羅列や歴史的事実では著作権の対象から省かれることになる。

 

  • 創作性

 次に「創作的」でなければならないとしている。広く知られた表現や,他人の作品を忠実に再現したものでは著作権の対象にはならない。独自性が必要であるということになる。

 

  • 表現されていること

 さらに頭にあるだけで外部に表現されていない単なるアイディアは著作権の対象から外される。必ず「表現している」ものであることが条件であり,つまり著作権法で対象とされるのは,表現されたものの背景にあるアイディアではなく,あくまで表現それ自体である。

 

  • 文芸,学術,美術または音楽の範囲に属すること

 これらの範囲に分類されることは難しいとされているのが,世界共通の認識である。広く知的・文化的な範囲に含まれていれば良いとされている。

 

 以上の4項目が「著作物」として認められる基準となる。

 

著作権著作者人格権

 上記のような作品が著作物と認められる場合,著作権法により,その著作物を創作した人は著作者となり,著作権著作者人格権が発生する。それぞれ以下の表のような権利から構成されている。

 

  1. 著作権

支分権の名称

根拠となる項目

複製権

21条

上演権及び演奏権

22条

上映権

22条の2

公衆送信権

23条

口述権

24条

展示権

25条

頒布権

26条

譲渡権

26条の2

貸与権

26条の2

翻訳権,翻案権等

27条

二次的著作物の利用権

28条

 

  1. 著作者人格権

人格権の名称

根拠となる項目

公表権

18条

氏名表示権

19条

同一性保持権

20条

 

  1. 著作権
  • 複製権

 他人が自分の著作物を勝手に複製(コピー)することを禁止できる権利。ここでの複製とは,著作権法で「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義される。

 

  • 上演権及び演奏権

 上演権とは,著作者が創作した脚本や振付などを,他人が許可なく公に上演することを禁止できる権利。演奏権とは,著作者が創作した音楽を他人が許可なく公に演奏することを禁止できる権利である。ここでの上演や演奏には,録音した音楽を再生する行為も含まれる。また「公に」というのは,不特定または多数の人に直接見せまたは聞かせることを目的としていることである。

 

  • 上映権

 他人が自分の著作物を勝手にスクリーンやディスプレイ画面などに映写して公衆に見せることを禁止できる権利。

 

 公衆送信とは,テレビやラジオなどの放送,ケーブルテレビなどの有線放送,インターネットによる送信などで,公衆に向けて無線または有線で送信することを言い,公衆送信権とは,他人が自分の著作物を勝手に公衆送信することを禁止できる権利である。

 

  • 口述権

 他人が自分の著作物を勝手に公衆に向けて朗読などすることを禁止できる権利。

 

  • 展示権

 他人が自分の著作物(美術品など)を勝手に公衆に向けて見せるために展示などすることを禁止できる権利。

 

  • 頒布権

 他人が自分の著作物(映画など)を勝手に販売したり,レンタルなどすることを禁止できる権利。

 

  • 譲渡権

 他人が自分の著作物を勝手に譲渡により公衆に提供することを禁止できる権利。

 他人が自分の著作物(映画など以外)を勝手にレンタルなどすることを禁止できる権利。

 

  • 翻訳権,翻案権等

 他人が自分の著作物を勝手に他国の言語に変えることを禁止できる権利。

 

  • 二次的著作物の利用権

 著作権者は,その著作物を翻案して創作した二次的著作物についても,権利を得る。

 

  1. 著作者人格権

1)公表権

 公表権とは,著作物を公表するか否か,公表する場合にはその条件を決定することができる権利である。

 

2)氏名表示権

 著作物が公表される場合,著作者の氏名を表示するか否かについて,また表示する場合どのような名義で表示するかを決定することができる権利である。

 

3)同一性保持権

 著作者の意に反した作品の改変を受けない権利。

 

 これらは著作者人格権であり,著作権とは異なる。著作物の利用に関して著作者に認められる権利であることは共通するが,著作権は財産的権利であるのに対し,著作者人格権は個人の人格と深く結びつく権利である。このために著作権は他人に譲渡でき,相続もできるが,著作者人格権については,そのようなことはなされない。

 

ネットコンテンツの著作権管理

  • ネット社会

 今日,もはや「インターネット」を利用しない日はない。「平成25年版情報通信白書」によると,12年以来,日本社会におけるインターネット利用者は9652万人にのぼり,総人口に対する普及率は79%を超える。世代別に見ると6歳から70歳未満の各世代において60%を超えている。

 

  • ネットコンテンツの信頼性

 「情報通信白書」によると,我々の社会を支える情報の基盤であったテレビや新聞などの従来メディアと対比したインターネットの重要性を測定している。インターネットを「重要である」と認識している人は,5年から10年までに20ポイント増加して,61.4%になっている。

 同時に課題もある。同報告書では,信頼性の観点における相違について測定しているデータを見ると,テレビ(63%),新聞(72%)に比例しインターネットの信頼性は29%で,従来メディアの半分にも満たない。

 

  • ネットコンテンツの特性

 デジタル化・ネットワーク化によって,情報のコピー・保管・流通のコストは限りなくゼロになることが特性といえる。このような特性が上記の信頼性に影響している。結果,万人がクリエイター,情報発信者となり,世界中の人々に低コストで情報を届けることができる。

 

  • ネットコンテンツの自由「影の側面」

 ネットコンテンツ特性を利用したオンラインでの海賊版の流通も爆発的に増大した。その典型例は,海外でのBittorent(ビットトレント)や日本でのWinnyウィニー),パーフェクトダークなどの「ファイル共有ソフト」を利用した海賊版ファイルの交換であり,また,「サイバーロッカー」といわれるストレージさいとに漫画や音楽を無断でアップし,「リサーチサイト」と呼ばれるリンクサイトでこうした海賊版にユーザーを誘導して利益を上げる構造になっていた。

 

 90年代以降,米国などの権利者・コンテンツ企業は世界的に知的財産権の強化を図ってきた。ハリウッド・メジャーを擁するバイアコムが動画投稿サイトYouTubeとその親会社Googleを訴えた10億ドルの巨大賠償訴訟が関心を集め,同じくGoogleが進行した膨大な書籍のデジタル化プロジェクト(Google Books)も,作家や出版社による大規模な集団訴訟の対象になった。

 2010年,米国では海賊版対策を強化する「オンライン海賊版防止法案(SOPA)」が議会提案された。同法案は成立確実とされていたが,ネット上での空前の反対運動が勃発して,採決の無期延期に追い込まれた。

 さらに米国中心の国際条約の追求がされた。11年には,偽装品防止協定(ACTA)という,国際条約が提案されたが,ヨーロッパなどで数万人規模の抗議デモが200以上の都市で発生した。結果,欧州議会において圧倒的票差で否決された。

 日本では,11年に議員立法で成立した「違法ダウンロードの刑事罰化」法案は,抗議を巻き起こした。

 こうした「自由化」の流れと,知的財産権著作権含む)との緊張関係の中で,権利の保護と利用の推進のバランスは,ますます重要となる。

 

デジタル著作権管理(DRM

 デジタル技術を用いて,複製等の行為を防止したり制止したりする手段を一般に「DRM(デジタル著作権管理)」という。一定のDRMは,著作権法においても「技術的保護手段」として法的に保護されている。

 

 DRMは「コピーコントロール」技術と「アクセルコントロール」技術に大きく分けることができる。

まず,著作権は,著作物の複製や公衆送信などの支分権として著作権法に定められた特定の行為に対してのみ権利であり,著作物を単に見たり聞いたり,あるいはプログラムを実行したりする行為については保護の対象にならない。

しかし,デジタル技術を用いて,著作物を見たり聞いたり,実行すること自体を制限したりすることができる。このような技術をアクセスコントロール技術という。ソフトウエアのアクセスに必要となるパスワード認証などが例となる。

デジタル技術を用いて,著作権が及ぶ複製等の行為を防止する技術をコピーコントロール技術という。現在の日本の著作権法は,あくまでコピーコントロール技術だけを「技術的保護手段」として保護の対象としている。

 

  • 非暗号化と暗号化

 DRMは大きく①非暗号化と②暗号化に分けられる。

 ①非暗号化ではネットコンテンツ自体にコピー制御信号を付けて伝送し,それぞれの記録機器がこの信号を検出,反応して複製の制御を行うことである。CD等に用いられるSCMS(Serial Copy Management System)や,DVD等ではCGMS(Generation Management System)などのフラグ型がある。さらにコンテツ自体にエラー信号を付けて伝送し,それぞれの記録機器がこの信号を検出して誤作動させて,複製の制御を行うことである。VHSに用いられる疑似シンクパルス方式やコピーコントロールCDなどのエラー惹起型がある。

 ②暗号型では,スクランブル等の方法でコンテンツを暗号化し,非正規機器による再生や複製等から保護することである。DVDに用いられるCSS(Content Scramble System),ブルーレイディスク等に用いられるAACSAdvanced Access Content System),地上デジタル放送に用いられるB-CAS方式などがある。

 

著作権の国際的保護

 著作権は国境をこえ利用されることがよくある。ただ著作権法の内容は万国共通ではなく,国によって異なる。そのために国際的な取り決めが必要になる。

 

 最も重要なのはベルヌ条約である。同条約には166カ国以上が加盟している

①内国民待遇

 加盟国が外国人の著作物を保護する場合,自国民に与えられている保護と同等以上の保護を与える原則。

②無方式主義

 著作権の発生には,登録やマークの付記などのいかなる方式も必要としない原則。

遡及効

 ベルヌ条約の加盟以前に創作された著作物に関しても,遡って適用する原則。

 

 他にも100国以上が加盟している万国著作権条約などもあるが,多くの加盟国の場合,ベルヌ条約にも加盟しており,それが優先して適用されている。さらに,TRIPS協定は,WTO世界貿易機関)への加盟時に附属書であり,ベルヌ助役の主要な条項を遵守すべきと,定められている。

 

 

コンピュータ・プログラムは著作権法上の保護対象か

 上記のことから,コンピュータ・プログラムが著作物として認められるか否かについて検討したい。

 

 そもそもコンピュータ・プログラムは「0」と「1」がえいえんと続く記号列である。機械に対しての命令であり,人間には理解できない。

 保護対象となるためには,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」ことが必要である。以下に検討される点をまとめる。

 一つ目に,この二進法の記号列は「言語の著作物」と言えるのか否かが問題である。それは人間が創作したものであるが,あくまで数学的・物理学的なアルゴリズムに過ぎず,この点においては「著作物」とは認定されない。

 二つ目に,ベルヌ条約では保護範囲の定義として「文学的および美術的著作物」とあり,それに属しているだろうという理論だ。その背景には「表現方法や形式を問わない」と述べられており,プログラムは記号列であり,「文芸の著作物」であるとされた。

 三つ目は,コンピュータは機械であり,しかがってそのサブシステムであるプログラムも機械であるという理論だ。機械であれば,それは工業製品で,規格品で,量産品である。その場合,「著作物」とは認定されない。

 その後にもあらゆる理論が出されているが,重要な点を抑えているのは上記の3点である。現状では,多くの国でプログラムの著作権を認知している。

 

 課題が浮き彫りになる。著作権法には,その著作者に権利が自動的に与えられるという無方式主義がある。つまり,著作者はどんな手続きさえ,とる必要はない。この主義のもとでは誰がどんなプログラムに関して,権利を持つのか明確にはわからない。しかも,プログラムはあくまでアルゴリズムであり,アルゴリズムであれば出力される行為や効果は,誰が書いたとしても類似してしまう場合もある。

 さらに著作権法で保護対象となるのは「利用」であり「使用」ではない。プログラムはあくまで演算であり,かりに,プログラムの無断利用があったとしても,その行為を著作権法上で阻止はできないだろう。

 ついで著作者人格権では同一性保持権が保護されるが,プログラムはその性質上,改変や一部引用などによって発展していく。逆にこの点を制止すると,文化の発展を阻害してしまう可能性すらあるだろう。

 

以上の点から,現状では,多くの国でコンピュータ・プログラムの著作権を認知しているが,それはうまく働かず,さらには著作権法の目的である「文化の発展」すら,阻害する可能性もあるだろうと考察する。

 

参考文献

  1. 福井健策(2014)『インターネットビジネスの著作権のルール』公益社団法人著作権情報センター
  2. 名和小太郎(2010)『著作権0』NTT出版
  3. 総務省(2013)『平成25年度情報通信白書』http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/pdf/index.html