結核は古く新しい病である。RIKU Shiraishi

結核は古く新しい病である。

過去に日本では年間の結核罹患数が100万人以上、死亡数も10万人を超えることもあり、長らく日本人の死亡原因のトップで、「国民病」と呼ばれていた時代がある。世界中では、いまなお、1日で4000人が結核で命を落としている。

昨年の国連総会結核ハイレベル会合で採択された政治宣言では、2018年から5年間で、結核の発病者4000万人に診断と治療を届けることを目指し、そのためには年間130億ドル(約1兆4600億円)の資金が必要であると世界に呼びかけた。ちなみにこの額は日本の1年分の防衛費の3分の1未満。1か国の防衛費の3分の1の資金で、世界100国近くの5年分の結核死亡者を救える。決して多額で無駄な投資ではない。

この国際社会からの援助資金の確保は事実上、世界基金に期待されている。

世界基金の増資会合は、3年に一度、三大感染症の撲滅のための援助資金を調達するために開催されるもので、2013年はアメリカのオバマ大統領、2016年はカナダのトルドー首相が主催し、今年10月にはフランスのマクロン大統領によってフランスのリヨン市で開催される予定である。

しかし、カネがあっても、草の根まで浸透させるのには、やる気と根気が必要である。

さらに「理屈」は簡単、「実施」が難しいのである。私の経験では、成功の10%は政策や戦略、90%は実施やオペレーションにある、と思っている。

各国の政治・経済・社会状況、インフラ、社会資源、文化・価値観など様々な状況を見ながら、その国に見合った実施計画を作り、地理的・時間的展開を考え、その実施に力点を置く必要がある。

日本は「実施」の面で、稀有な成功例をもっている。「国民病」と呼ばれた結核を、年平均で10%以上という世界でも稀に見る驚異的な減少率を実現した。それも日本がそれほど豊かでなく、効果的な治療法も確立する以前、1950、60年代の話である。

さらに、我が国の民間企業、栄研化学、ニプロ、富士フイルムなどは結核の検査・診断で有望な製品を作っている。今後に期待したい。

結核について、日本に対する国際社会の期待が大きい。さらに言えば、世界基金は日本政府の呼びかけによって、設立された経緯もある。ぜひ、日本政府にはこの分野において、国際社会をリードしていってほしい。

しらいし