世界におけるモバイル決済の普及とその背景

もしあなたが厳格なミニマリストであればジーンズの左後ろポケットに2つおり財布が入っていることさえ、鬱陶しいとおもうに違いない。

 

世界では面白いことが常におきていて、東アフリカの地方都市から水道設備がないような農村にむかうバスの車内、客引き係の青年の古びたスマホには客から次々と運賃が送られている。いっさい現金の受け渡しがないことすらあるのだ。

 

ケニアでは携帯電話の普及率が7割を超えた。宗主国であるイギリスとの合弁会社であるSafaricom(サファリコム)は、国内最大の通信事業者であり、金融機関でもある。彼らが開発した「M-Pesa」(Pesaとはスワヒリ語でお金であり、Mはモバイルを意味している。)の送金額が国内GDPの4割を占めている。

 

仕組みは簡単で電話番号から電話番号へ送金ができる。電話番号をもとにモバイル口座が構築され、街中の小さなキヨスクで引き出しや預け入れができる。シンプルな仕組みだが、かなり革新的だ。モバイル決済(QR決済もだが)全般のメリットといえるが、ひとつ目に利便性。スマホを持っていれば簡単に支払いができる。ふたつ目にコスト面。大きなレジやカードを読み込むデバイスも必要ない。店主が持っているスマホで受け取ればいい。みっつ目にリスク面。おおくの途上国では紙幣の偽造が問題になっている。高額な取引をしたがその紙幣が偽物だった、ということはよくある。

 

人類は物々交換の時代から、貨幣→クレジットカード→モバイルへと決済方法を変えてきた。じつはモバイル決済は途上国でよく普及する傾向がある。それを「リープフロッグ型発展(Leapfrog)」という。つまり「既存のシステムや規制がない世界では、もっとも優れているとされるサービスが導入されやすい」ということだ。

 

サブサハラ南アフリカでは、固定電話回線の普及を経ることなく、携帯電話が普及した。日本でも議論されるようにまったく新しいサービスが登場しても既存のサービスが存在するのでそれが障壁となるのだ。前途の「M-Pesa」などの携帯電話での送受金システムを世界で初めて導入したのはケニアであった。この銀行を介さないシステムは貧困層の間で瞬く間に広まることになる。

 

これまでの決済システムの変革において、重要なのは「信頼」や「信用」というものだ。貨幣には国家の信頼があり(もともとは金本位制といい、金と交換できることが保証されていた。)、クレジットカードは個々人がもつ資本を担保に信用していた。簡単に言えばクレジットカードによる決済は一時的な借金であり、その担保になっているのはその個々人の資本だ。

 

以上から2つの説とその説明がなされる。

  1. 途上国においてはモバイル決済が普及しやすいだろう。
  2. 先進国においてはモバイル決済が普及しにくいだろう。

この2つだ。

 

途上国においてはモバイル決済が普及しやすいだろう。

 

 

途上国のポイントを以下にまとめてみたい。

金融インフラが整備しきれていない。

紙幣を中心に偽物が流通している。(国家発行の紙幣も耐久性が低く、ボロボロ)

携帯電話の普及率が高い

借金ができるほど信用、収入がない

 

これらから導き出せるのは、銀行などの金融インフラの不整備と携帯電話の普及率が高いことから、「リープフロッグ型発展」がおき、クレジットカードによる決済というフェーズを飛び越え、モバイル決済が普及したこと、だ。

 

しかしこれでは、貨幣のまま、貨幣からクレジットカード、貨幣からモバイルという2つの選択があるにもかかわらず、モバイルに流れたことを説明しきれない。

ここでクレジットカードとモバイルの決定的な違いは「信用」についてだ。クレジットカードの場合本質的には「借金」であるので「信用」を必要とするが、モバイルの場合(特にクレジットカードに紐づいているものではなく口座に紐づくもの)は、即時に口座から引き落とされるため、借金ではない。

さきほどの途上国のポイントであげたが彼らには金融機関における信用、収入がないため、借金を負うことは難しい。よって貨幣からクレジットカードという道には障壁がおおい。

 

そして貨幣のままという道だが、これは偽物が流通する途上国では難しい。よって貨幣のままという道は困難だ。

 

以上から、途上国ではモバイル決済が普及しやすいといえるだろう。もちろん外的にはスマホ価格の低下、教育投資や保険といった概念の広まりなどおおくの要因があることは強調しておく。

 

先進国においてはモバイル決済が普及しにくいだろう。

 

先進国のポイントを以下にまとめてみたい。

金融インフラが整備されている。

携帯電話の普及率が高い

クレジットカードが普及している。

 

これらから導き出せるのは、金融インフラが整備され、クレジットカードの普及率が高いことから、いまさらモバイル決済に乗り換える必要性を感じていないこと、だ。さらにモバイル決済の不正利用などのデメリットが広く語られやすいことも普及を妨げているといえる。

 

先進国にすむひとびとはクレジットカードとモバイル決済、貨幣の3つの選択肢があり、それぞれのメリット、デメリットが広く議論される。そのなかで新規参入された新規登録などの手続きが必要な(いかに簡便化されていても必要不可欠)モバイル決済を採用するのは少数派であろう。

 

以上から、先進国においてはモバイル決済が普及しにくいといえる。

 

これからの最先端技術は途上国で生まれるかもしれない。それを「リバースイノベーション」とよび、「リープフロッグ型発展」をへた途上国でさらなるイノベーションが発生し、それが先進国にもどってくるというものだ。そのようなイノベーションの件数はおおくはないが、今後確実に起こってくるだろう。

 

とにもかくにも、サブサハラ以南のアフリカを中心に途上国におけるビジネスには目が離せない。

 

しらいし